伝統仏壇

伝統仏壇

 6世紀半ばに百済から釈迦金銅仏、幡、経論が日本にもたらされ、仏教が朝廷にも受け入れられるようになると、やがて寺院建築や仏教美術に関わるさまざまな技術者が百済から来日するようになりました。世界中で、様々な宗教の信仰がその国の文化を形成してきたのと同様に、日本の文化も仏教の受容とともに飛躍的に進歩しました。伝来以降、仏教美術は信仰という人々の身近な習慣と相まって発展し、日本の文化・美術を牽引してきました。
 仏壇製造もまた、江戸時代に一般に普及するようになると、城下町として栄えた彦根では戦国時代から武具産業に関わっていた各職の職人もたずさわるようになり、木工、金工、漆芸、金箔など背景の異なる各分野の優れた技術が一本のお仏壇に結集するようになります。
 日本の工芸の粋を集めた伝統的な仏壇製造は、仏教の信仰を通して、人々の暮らしと日本の美術・工芸をつなぎ、その継承と発展の一旦を担ってきました。

工部七職

工部七職

 彦根仏壇は、“工部七職”といわれる、木地師・宮殿師・彫刻師・漆塗師・金箔押師・蒔絵師・錺金具師の七人の職人が、分業により一つ一つ丁寧に、心を込めて手作業で仕上げられていきます。
 木地から組み立て、完成まで職人から職人へと仕事が流れ、一本のお仏壇が完成していきます。

木地師|Kiji-shi

木地師|Kiji-shi

 彦根仏壇では、主に檜(ヒノキ)、欅(ケヤキ)、杉(スギ)、松、ヒバ材を使用しています。
職人が、柾目、杢目、木裏木表を目利きし適材適所で材料を使い分けます。
 伝統的な仏壇造りには、図面は存在しません。古くより”杖”と言う一本の棒に寸法を刻み、それを図面替わりに製作していきます。現在でも大半は、伝統的な手作業によって、木地の組立から工程が始まります。

木地師|Kiji-shi

木地師|Kiji-shi

 お仏壇の木地は、組み立て、分解ができるよう“ほぞ組み”になっています。これは、分業を主とする仏壇製造の工程において、作業がしやすい状態を保つことができます。また、完成後も、解体して修理や手入れをすることで再生できるような造りになっています。

 

『彦根仏壇 経済産業大臣指定伝統的工芸品 彦根仏壇事業協同組合』の印
 伝統工芸品の証である焼印は、彦根仏壇組合の検査員及び市、県、大学教授等の構成メンバーによる検査委員会にて審査され、厳選され認められたものにのみ焼印されます。

宮殿師|Kuuden-shi

宮殿師|Kuuden-shi

 お仏壇内部の屋根周りを造るのが宮殿師です。円柱の柱貫から屋根を支える枡型まで、仏壇全体の寸法から各部品の寸法を割出し、数百の小さな部品を木で加工します。非常に細かな工程で、一段一段組み合わせていきます。

宮殿師|Kuuden-shi

宮殿師|Kuuden-shi

 お仏壇の中央に位置する宮殿。
 破風アールの形が命とされ、バランスを大切に美しい曲線を刃物で削りだしていきます。数千個にも及ぶ部品を組み合わせ、本物のお寺の建築と変わらぬ精巧な作業で造り上げていきます。

彫刻師|Chyoukoku-shi

彫刻師|Chyoukoku-shi

 欄間などの装飾部に花鳥、天人、人物彫りなど仏教に関わる図案を彫刻するのが彫刻師です。主に姫子松、桧、欅 等の木材により彫刻がなされます。 何十本の年季の入った鑿(ノミ)や彫刻刀、小刀を駆使して、丹念に彫り上げていきます。最初のあら彫りこそが仕上がりの躍動感を左右します。

彫刻師|Chyoukoku-shi

彫刻師|Chyoukoku-shi

 厚み1寸の赤身の欅の無垢板から、宝相華の図柄を彫刻していきます。
 宝相華(ほうそうげ)とは、仏教的意匠であり空想の吉祥紋様で、理想の花として考え出されたものです。中国では唐の時代、日本では奈良から平安時代によく使われ、正倉院宝物を装飾する文様としても多く見られます。仏の世界では、“宝相華で始まり宝相華で終わる”と言われるほど、重要視された図柄です。

錺金具師|Kazarikanagu-shi

錺金具師|Kazarikanagu-shi

 厚さ0.8~1.2mmの銅や真鍮の地金に、手加工で彫金するのが錺金具師です。地金に唐草模様などを下描きして、硬い鋼鉄で作られた鏨(たがね)で打ち込んでいきます。加工技法には、地彫(じぼり)、浮彫(うきぼり)、毛彫(けぼり)があり、熟練の飾金具師になると、約300種類以上の鏨を使い分けます。
 強さ、速さ、時にはリズミカルに、鏨を打ち込んでいく姿は芸術そのもです。

 伝統工芸師である田中洋一氏(写真)は、平成26年11月3日に瑞宝単光章を受章されました。

錺金具師|Kazarikanagu-shi

錺金具師|Kazarikanagu-shi

 お障子中央の“八双金具”。百合の毛彫りに縁周りは唐草文様の透かし彫り、八双定木金具にはガマの穂、カン抜きに桔梗(ききょう)の毛彫りを施しています。真鍮地金に特殊加工の本金鍍金(メッキ)で仕上げ、純金のような奥深い艶を放ちます。中央にはアクセントとして、摺りはぎの銀鍍金で仕上げた菊の文様の止め具が取り付けられています。地金を裏からたたいて立体感を出し、表から鏨で文様の細部を彫り上げています。
 手の込んだ錺金具が多用されているのも彦根仏壇の特徴です。

塗師|Nu-shi

塗師|Nu-shi

 お仏壇造りで最も重要な漆塗り。下地加工した木地に、貴重な天然漆で中塗り、上塗りを行い、その都度研磨と乾燥を繰り返します。最後に呂色磨きで艶をだして仕上げます。漆を塗り加工することで100年以上の耐久性をもたせ、深い光沢を放ち、人の心を豊かにする味わいを持っています。
 漆は2000年以上の歴史を持つといわれています。日本女性の黒髪を束ねた漆刷毛で塗りこんでいきます。

塗師|Nu-shi

塗師|Nu-shi

 自然界より授かった、欅(ケヤキ)の杢目。透漆を塗りこみ、深みのある琥珀色に仕上げ、人の心を魅了する、彦根仏壇ならではの色合いを放ちます。
 彦根仏壇の特徴でもある“木目出し塗”は、お仏壇の観音開きの扉や台輪に施され、杢目の優美さと奥深い色艶が、ほのかに空間を明るくしてくれます。基本的には一般的な漆塗りの技法と変わりませんが、年輪の模様を自然のままに残すための高度な技巧が必要とされます。

蒔絵師|Makie-shi

蒔絵師|Makie-shi

 漆地の上に、花鳥や人物などの絵文様を描き、加飾するのが蒔絵師の仕事です。
 硫黄か漆で下絵の図柄を描き、漆を塗り込んで、金粉や銀粉を蒔きます。その上から蒔絵専用の筆で、唐草模様などの仕上げの線を書き添えていきます。毛画きと言われるほど細く、筆先の腰の弾力を使い、息を止めて一気に描いていきます。
 蒔絵には、印刷のようなものもありますが、当社は熟練職人による手描きによって製作されています。

蒔絵師|Makie-shi

蒔絵師|Makie-shi

 扉裏面のランセン四隅にさり気なく描かれた唐草蒔絵。
 程よく全体を引き締め、雅やかな風合いを醸し出します。人の手による有機的な文様は、空想の極楽浄土の世界を表現するアクセントとして、重要な表現のひとつです。

金箔押師|Kinpakuoshi-shi

金箔押師|Kinpakuoshi-shi

 厚さ0.1ミクロンまで打ちのばした本金箔を、専用の竹箸で一枚一枚つまみあげ、丁寧に貼っていきます。箔紙をとり、真綿でそっと押さえて固定させます。
 彦根仏壇は、漆塗りのお仏壇が主体で「金箔仏壇」「金仏壇」とも称され、内装に金箔が貼られています。一般的に使用される金箔は純度94%以上の純金を使用し、他産業ではまず見られない贅沢な材料を用います。

金箔押師|Kinpakuoshi-shi

金箔押師|Kinpakuoshi-shi

 本金粉目はじき仕上げ。扉の天然杢目をそのまま活かし、漆を幾度と摺り込みます。下地として本金箔を一枚づつ箔押しし、その上に金粉をまき、定着させます。自然の優美な杢目は、金箔と金粉を重ねて仕上げることで、しっとりとした奥深い輝きを纏います。

伝統仏壇|Traditional

伝統仏壇|Traditional

本三方堂造(東)

伝統的工芸品

 

 平成27年度 第22回全国伝統的工芸品仏壇・仏具展において全国第一位の経済産業大臣賞に輝いたお仏壇です。一間仏間用の、本格的彦根仏壇三方開きお御堂造りです。

伝統仏壇|Traditional

伝統仏壇|Traditional

本三方堂造(東)伝統的工芸品

製作メンバー

 

統括    仏壇立案デザイン構成  宮川仏壇(株)

木地師   大橋和夫(伝統工芸士)

宮殿師   関新二郎(伝統工芸士)

彫刻師   清水弘司(伝統工芸士)

漆塗師   清水隆司(伝統工芸士)

      藤野久一(組合認定技能士)

金箔押師  馬場和子(組合認定技能士)
      坂本一枝(組合認定技能士)
     (平成28年度 彦根市伝統的工芸品産業技術者表彰受賞)

錺金具師  田中洋一(伝統工芸士)
     (平成26年11月3日 瑞宝単光章受賞)

蒔絵師   宮下浩考(組合認定技能士)

組立師   谷沢準一(組合認定技能士)